だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

雑誌について考える

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前回は、雑誌読み放題サービスを利用した感想について書きました。
これと同じような内容を、現実世界でよく合う人に話してみたところ『みんなネットに置き換わっていくね。 そんなに安くなって、利益出るんかな? ますますデフレになるね。』なんて感想を頂きました。

確かにそうですよね。
dマガジンで取り扱っている雑誌の多くは、1冊あたりの単価がdマガジンの月額料金より高い状態。
特に、ファッション誌などのカラー写真が多めでしっかりとした作りになっているものは高く、800円近くするものすら有ります。
800円という事はdマガジンの2ヶ月分の料金に匹敵するわけで、単に情報が欲しいだけの場合、書店で買う意味が見当たりません。

消費者が金銭的に得をするということは、逆の考え方をすれば、出版社側の販売利益は大幅に減少してしまうことになります。
にも関わらず、何故出版社側は、こんな不利なサービスに雑誌を提供しているのでしょうか。

という事で今回は、雑誌について考えていきます。

本屋で雑誌が販売されているということは、売れれば売れただけ出版社の利益になるから、一生懸命記事を書いて、定期的に雑誌を出版しているのだろう。
私は今まで何の疑問もなく、この様な思いで雑誌を購入していました。
ですがこの認識って、そもそも正しいのでしょうか。

よくよくファッション誌などを観てみると、同じ価格で売られている新書と比べると、紙の大きさも4倍近い大きさです。
中身はカラー写真が多く使われていますし、その写真が綺麗に見えるように、紙の質も良い物が使われています。
これで同じ値段で販売。そもそも利益は出ているのでしょうか。

似たようなページ数のカラー写真を多めに使用したムック本の価格を調べてみると、大体の価格が1500~2000円程度と、ファッション誌の倍近い価格。
販売数量などによって製造単価は変わってくるとは思いますが、それでも販売価格が倍というのは差がありすぎですよね。

という事で、本を出版した時の出版社の利益について調べてみました。

google先生に『出版社 雑誌 利益』で検索をかけてみたところ、雑誌ではなく新書についての計算を見つけることが出来ました。
それによると、本の値段の内、書店と取次の取り分が約30%で、残り70%が出版社の取り分ということになるようです。
ただ本は、放っておけば勝手にできるというものではありません。本を制作する為の経費を、ここから差し引く必要があります。
著者への印税が10%で、製造費用が30%、その他販売管理費が20%なので、残りの10%が利益として残るようです。

ただ、これは印刷した全ての本が売れた場合の計算で、実際には売れ残ることも多いようです。
一般的な本の返本率は40%程度なので、重版が決まるほど売れなければ、赤字ということも少なくないようです。

話が新書にずれてしまったので、雑誌の方に引き戻しましょう。
これを雑誌に当てはめた場合、どれぐらいの利益になるのでしょう。
雑誌の場合は、同じような構成のものを毎月・毎週出す為、購入する人も限定されていることが多く、ある程度の販売量が予測可能です。
その為、返品率40%なんてことはないでしょう。
私は『ファミ通』をたまに購入することが有りますが、木曜日発売のものが日曜日には何処にいっても見つけられない状態になる為、ほぼ完売状態と考えても良いかもしれません。

となると、新書と同じ計算が成り立つなら、出版社は10%程度の利益を得ていることになります。
しかしここで問題になってくるのが、雑誌の価格です。

先程も書きましたが、ファッション誌の場合は新書に比べて、紙の大きさや質がかなり上です。
当然、製造コストも上昇します。同じ様な紙を使用したムック本の価格は、先程も書きましたが1500~2000円前後。
このムック本の価格が、新書と同じような返本率40%で採算ギリギリか赤字という計算で付けられた金額だとすると…
雑誌の価格はこの半額に設定されているわけですから、返本が無かったとしても、計算上は返本率50%と同じ計算になってしまいます。

つまりは、刷った分が全部売れたとしても赤字という計算。
ファッション誌の場合、『おまけ』としてバッグやスカーフといったものを付ける場合も有りますから、雑誌販売では利益が出ないと考えても良いでしょう。

では、雑誌販売では利益が出ないのに、何故、出版社は売れば売るほど赤字が膨らむ雑誌を作り続けているのでしょうか。
これは雑誌を読めば簡単に想像できますが、雑誌は、結構な割合を広告が占拠してます、その広告収入によって利益を得ていると考えられます。
特にファッション誌を始めとした『商品』をメインに扱っている雑誌は、メーカーからしても自分たちの商品を知ってもらう手段の一つとなっているので、無くなってしまうと困ってしまう存在です。
その為、自分達の存在を周知してくれる出版社を存続させる意味でも、多額の広告料を支払っているのでしょう。

まとめると、出版社にとって雑誌売上というのは利益に全くつながっておらず、むしろ赤字の状態で、利益の大半は広告収入によって得ているという構図になっています。

で、最初の話題に戻りますが、何故出版社は月額432円で雑誌読み放題なんてサービスに自社のコンテンツを提供するのかというと、そもそも雑誌販売では赤字しか出てなかったからなんですよね。
出版社にとって重要な事は、スポンサーに広告効果が有りますよと示す為の閲覧数だけで、今までは閲覧数を稼ぐ手段が雑誌の販売数を伸ばすことしか無かった状態でした。
それが、技術の進化によって他に閲覧数を伸ばす手段ができたというわけです。

週刊アスキーは紙媒体の発行を全てやめ、電子一本に絞ったようです。
これにより、本を印刷・製本する為の費用が無くなり、実物の商品が無くなったことで、販売管理費も無くなります。
本の出版に係る経費がほぼ無くなる上、dマガジンの様な雑誌読み放題サービスにコンテンツを販売すれば、コンテンツを配信するためのサーバー代を肩代わりしてくれる上にページ閲覧数に応じてお金まで貰えます。
客の方も、一冊づつ購入している時と違って読み放題なわけですから、普段読まないような雑誌にも手が伸びる。
結果として、相乗効果で購読者数が増えることも期待できるので、良いことばかりということになります。

出版社と購読者という関係だけで見れば、読み放題サービスというのは win winの関係になっているんですよね。
もっとも、排除される本屋・取次・印刷・製本・販売管理部門にとっては、面白く無い話でしょうし、この様な事が積み重なってデフレの原因になっているのでしょうけども。
ただ、仕組み自体は非常に良いものなので、『デフレになる!リストラされる業者が可哀想!』といった理由で後退するのは、間違っていると思いますが、これについて書くと長くなりそうなので、また機会があったら書こうと思います。