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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

国立競技場問題について考える ~ザハ(ZHA)氏は悪くない?~

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ワイドショーは、安全保障の次は国立競技場の話ばかりをしていますね。
といっても、ほぼ取材はしていないようで、語られているのは建築費のことばかり。
その建築費も、出処がよく分からない数字。
テレビ各局は反対方向の意見の様で、そのバイアスをかけた報道なので、正直、どこまで信用して良いのかわからない状態。

という事で今回は、新国立競技場について自分なりに考えていきます。

先日のことですが、辛坊治郎さんが国立競技場について語られていました。
この方は話し方が非常に上手く、ニュースを漫談のように話されるかた。
当然話も盛っているでしょうし、どこまで信用して良いのかわからなくなる時が有るのですが、ワイドショーよりかは取材されている印象なので、まだ信ぴょう性が高いと思います。

そんな辛坊さんが話されていた話なのですが、国立競技場はどんな案が出ていたとしても、3000億近い予算になっていたという話。
つまりは、3000億という予算ありきで、建設計画が進んでいたという話。

では、国土交通省は3000億円近いお金で国立競技場を建てたかったのかというと、そうではないそうです。
国交省が以前から建てたかったその他の施設やビル等を、国立競技場の予算とごちゃ混ぜにした形で通す事で、一気に建ててしまおうという計画があったそうです。
因みに辛坊さんが仰るには、当初のザハ案の設計で、かかる建設費用は1600億円。
これも、適当に出した数字ではなく、日本のスーパーゼネコン4社が出した見積価格だそうです。

という事は、逆算すれば国交省が有耶無耶な状態で建てたかった施設の建設費を1000億程という事になる。
国交省がオリンピック予算に便乗して建てたい施設1000億円を取り下げない場合、1300億円の予算に抑える為には、国立競技場の建設費は300億に抑えなければならないということになります。

辛坊治郎さんだけの意見で考えるのもおかしいので、その他の意見も見てみましょう。
設計士であるZHA氏の意見がこちら。
http://www.zaha-hadid.com/2015/07/28/new-national-stadium-tokyo-japan-statement-by-zaha-hadid-architects/www.zaha-hadid.com
原文を日本語訳にして要約したのがこちら。
1kando.com
この案件は、ラグビーやオリンピックだけでなく、今後50年~100年にわたって、世界中から集客できる様な多目的施設を作りたいという要望を受けて設計した。

ZHAさんの主張としては、設計は予算内で出来る様に単独で考えたわけではなく、日建設計を始めとする日本の第一線の設計事務所と共に考えた。
設計は2年間にわたって考えられ、その間、積極的にコスト削減に努めてきた。
全ての段階においての設計及び予算は、JSC(日本スポーツ振興センター)に承認されてきた。

今回の案件は何故か、設計・見積もりの前に施工業者を指定するという、日本で初の2段階入札方式が採用された。
ZHA氏は、二段階入札方式の経験が何度かあり、事前に施工業者を指定すると競争が起こらないので、建設費用が大幅に上昇すると忠告。
これは、競争入札の方が価格競争が起こる為、建設費用は削減できる為。
しかし、国交省がこれを聞き入れることはなかった。

ZHA氏は、入札方式を変更しないのであれば、建物のクオリティーを下げる事で建設費を削減できる案も提案した。
これは、8万人以上収容で、スポーツイベントだけでなく多目的に使えるといったものを、用途を限定したり収容人数を減らすことで、建築費を削減できるということでしょう。

しかし、コスト削減の要望もないままに、7月7日には予算が承認され、コストを下げろという指示もなかった。
その後も、コストダウンの可能性を模索する為に、設計者と施工者、そして依頼人と共同チームを作る事を提案するも、設計側のZHA氏は施工者と接することを禁じられる。

いろいろな手をつくして方法を模索したにも関わらず、JSCの有識者委員会へのレポートにて、コストアップの責任は設計側が原因と非難を受ける。
しかも事前に知らされることもなく、寝耳に水状態。
そして主な要因は、アーチ構造が原因だと一方的にいわれる。

確かにアーチ構造は、新しい工法で難しいように思える。
しかし実際には、橋梁技術として既にあるもの。
その為、既存の技術で建設が可能と主張。


これが、ZHA氏側の主張です。

オリンピックで、こんな高い建物が必要なのかという意見も多いですが、その理由は、最初の一文で理解できます。
ラグビーやオリンピックだけでなく、今後50年~100年にわたって、世界中から集客できる様な多目的施設を作りたいという要望を受けて設計した。』
この最近の報道でも分かる通り、日本は観光立国を目指し、推進する方向に舵を切っています。
つまり、オリンピックが最終目標ではなく、その後も集客できる様な世界レベルの観光施設の建設を行っていたわけです。
アンビルド(建設できない)の女王と異名を持つZHA氏の設計を、日本の技術で完全に具現化すれば、世界レベルの観光地になったかもしれません。

またワイドショーでは、やたらとアーチ状の梁が問題といわれています。
しかし、アーチ状の橋は有るわけで、既存の技術で出来ると言われれば、説得力はある。
なんせ、橋は柱部分以外を空中に保たなければなりませんが、この建物は地上に有る為、アーチ部分に橋程の強度が必要ないかもしれない。
更にいえば、この案はZHA氏の単独の意見ではないということ。
46のエントリーの中から選ばれた案で、選出人の中には、設計士も含まれていた。
エントリーした際の設計も単独で行ったわけではなく、日本の建築事情を知る日建設計を始めとする日本の第一線の設計事務所と共同で2年かけて行っている。
因みにこの時の見積では、アーチ部分は230億円と、安くはないが、マスコミが伝える数字よりははるかに安い。

これ程の巨大プロジェクトなので、工事の大まか見積もりを決める際に、実際の施工業者でなかったとしても、他のゼネコンの意見も当然のように聞いているでしょう。
その上での見積もり。

そして、一番疑問なのが、国交省の行動です。
特に、設計側と施工側の接触を禁じている点。
ザハ氏の主張通り、クライアントと設計士・施工側とが話し合いをして、予算内で出来るように落とし所を探るのが、普通の人の感が得。
ですがこの案件では、設計側と施工側の接触を禁じられている為、意思疎通が出来てない。
しかも何故か、競争入札ではなく、公共工事で日本初の、予め施工業者を決める二段階入札方式。

見積り価格を高く維持し、不透明にしたいのではないかと勘ぐってしまう。
そしてこの行動は、辛坊氏の最初の指摘に、信ぴょう性を与える。
それは、国交省が国立競技場とは別に建てたい1000億円の案件を、競技場の予算と一緒くたにして申請しているという指摘。

もしこの指摘が正しいとするなら、日本は国として、ザハ氏に謝らなければならないのではないだろうか。