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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

【映画】 白石晃士監督作品 オカルト

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私はネットラジオを聴く事を趣味の一つとしているのですが、今年に入り、やたらと白石晃士監督の作品を耳にする機会が増えてきました。
白石作品を頻繁に取り上げているネットラジオはこちら。

http://moteradi.com/20150613bmoteradi.com

pegayaneura.seesaa.net

耳にする機会が増えると不思議と興味が出てくるもので、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』はDVDで借りれるところまでレンタル。(花子さんまで)
結果、見事なまでに白石作品に魅せられてしまいました。

その後、動画サイトGYAO!で、カルトが期間限定?で無料放送を開始。
それを観て更に白石ワールドにハマってしまった矢先、オカルトまで無料放送が開始した為、早速観ることにしました。



結果からいうと、予想以上に怖かったです。。
私は正直、白石作品では笑ったことしか有りませんでした。
多くの作品が、心霊現象などのオカルトを題材にしているフェイク・ドキュメンタリー。
しかし、登場人物がメチャクチャな行動をとったりと、普通のホラー作品の様に単純に怖がらせる演出ではなく、意表を突く様な仕掛けになっている為、そのギャップで笑ってしまったりしていました。

今回紹介する作品の『オカルト』も、基本的には同じテイストで取られています。
その為、他の作品と同じような楽しみ方をされている方も多いとは思うのですが…
私は何故か、怖かった。
それも、観ている時に恐怖で怖がるという怖さではない。
寝る前に作品を振り返る為に脳内でリプレイしていると、徐々に怖くなってきて、最終的に悪夢を観るというタイプの怖さ。

そういった意味では、ホラー作品として非常に優秀な作品なのかもしれない。
(上から目線ですみません)

という事で今回は、白石作品の【オカルト】について、感想や考察をしていきます。
ネタバレ要素を多分に含みますので、ここまで読んで興味を持たれた方は、まず作品を見てから読んでいただければ幸いです。



ますは、大まかなあらすじ。

最初に無差別通り魔殺人が起こり、その犯人は崖から飛び降りるも行方不明に。
犯人に刺されるも何とか助かった江野さん。
しかしその傷口は、奇妙な模様になっていました。
その後、被害者の江野さんの周りでは不思議な出来事が頻発。
また耳元で不思議な囁き声も聞こえる様になり、加害者に刺された際に『次はお前だ』と言われた事でバトンを受け取ったと認識した江野さんは、それを神の啓示だと思い込む。

一方で、無差別殺人事件を取材している制作会社は、江野さんの奇妙な言動に興味を持ち、密着取材を行う。
インタビューを続け、江野さんが事件の前後に不思議な声を聴いたことに注目し、江野さんと交流を深めて何とか聞き出す。

その神の指示する内容は、『自爆殺戮渋谷交差点』

渋谷のスクランブル交差点で、自爆テロを行なえという指示。
聞き出した取材班のカメラマンは必死に止めるが、その後に起こる超常現象を目の当たりにし、事件の一部始終を記録することが使命だと思い込み、行動を共にすることになる。

カメラマンと江野さんは神の指示に従うべく、着々と準備を進めていき…

といったお話。


この作品に対する私の印象は、リアルであるという事。

物語は、最初に無差別通り魔殺人事件から始まります。
普通の作品であれば、音やカメラワーク等で恐怖を煽る演出をすると思うのですが、この作品では一般視聴者が偶然カメラを回していた際に撮られた映像に映っていただけなので、そのような演出が一切ありません。
犯人が指している映像も主観で取られているわけではなく、カメラもブレブレなので誰が犯人なのかも解らない。
説明されなければ、殺人現場の映像かどうかも分からない程のチープな映像。

これが、考えだすと結構怖い。

犯人は単独で、体型も普通で武器もナイフ。
誰かを指している間に、後ろから捕まえたり殴ったりして助けることが出来たかもしれないのだが、回りにいる人間は誰も助けに行こうとせず、その中の一人はビデオ撮影をしている。
今の日本だと普通にありそうですし、自分が同じ現場に遭遇したら、助けようなんて考えは頭をよぎらないでしょう。
しかし被害者側に立ってみれば、犯人は単独犯で体型も普通。
周りには人がいっぱいいるんだから、叫べば助けてくれるとおもいきや、誰も助けずにビデオ撮影をされる…

現実に起こりそうな現象だからこそ、怖い。

次に、この通り魔殺人事件を経験して髪の啓示を受けたと思い込み、自爆テロを目論む江野さん。
彼は派遣の日雇い労働者で、住む家も持たないネットカフェ難民
食べ物も味で選ぶということはせず、値段とグラム数でコスパを計算して購入するという生活を送っている。

そんな彼が自爆テロを目論むというのも、実際にありそうだから困ってしまう。

というのも現状の世界をみれば、イスラム過激派は神の名を掲げて聖戦を作り上げている。
そして大量の人間と共に自爆して死ぬと、神のもとへ行くことが出来ると言って洗脳し、実際に行動を起こしている人達が存在する。

彼らが自爆テロを起こすのは、単純な信仰というものだけではなく、貧困問題というのも大きいだろう。
何も捨てるものが無い程に貧しいからこそ、『神のもと』へ行ける事が、唯一の希望に見えてしまう。
もし彼らが、恵まれているとはいえないまでも、最低限の生活を営んでいくだけの経済力があったらどうだろう。
自ら自爆する道を選ぶ人は、大幅に減るのではないだろうか。

この作品に出てくる江野さんも同じで、捨てるものがない程に貧しい生活をしている
何とか派遣の仕事で食いつないではいるが、作中でも語られているが、年齢を重ねれば重ねる程に仕事の数は減っていく。
今でも食べるのに苦労する状態なのに、これから先には絶望しかない状態であれば、僅かな希望に縋りたいという気持ちは解らなくもない。
自分は神に選ばれた人間だと信じたいし、安心できる場所へ行きたいとも思うだろう。

しかしもし、この江野さんが、裕福ではないが安定した生活を送っていて、家族を持っている人間だったとしたらどうだろう。
耳元で『自爆殺戮渋谷交差点』なんて声が聞こえても耳を貸さなかったろうし、その声が止まないのであれば、精神科へ相談に行っていたかもしれない。

逆にいえば、この作品で行われた自爆テロは、経済的な2極化が進む先進国では、いつ起こってもおかしくは無い事件ともいえる。


自爆テロを起こした江野さんは、『向こう側』を撮影する為にカメラを持った状態で自爆テロを行きました。
そのカメラは21年後に超常的な力によって返却される事になったのですが、そこ映っていた映像は…
ここからは実際に作品を見てもらいたいのですが、私自身は結構衝撃を受けたということだけは申し上げておきたいですね。

この作品を観て、今までのホラーの概念が変わったような気すらします。
本当の狂気は、日常の中にこそ潜んでいるのでしょうね。