だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

『相場のプロに任せる』という甘い考え

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最近、TVコマーシャルを観ていると『ラップ口座』なる言葉を頻繁に目にする。
主に証券会社が提供している口座なのですが、10年ほど前に規制緩和が行われてから普及し始め、最近の株高で勢いを増して普及しているようです。

『ラップ口座』を簡単に説明すると、証券会社で毎日の様に株価動向を観ているプロに資金を託し、代わりに運用してもらうというもの。
日本には昔から、餅は餅屋なんて言葉もありますし、『プロの相場師に任せる』なんてキャッチフレーズをみると、この手の情報に疎い方々は、つい頼ってしまいがちです。


しかし私は、10年以上前に少ない給料の中から投資をし、時にはかなり痛い目を見ながらも勉強してきましたが、そこでわかったことが一つあります。
金融市場には『プロ』なんて存在しないということです。

株式投資を一度も行った事が無い方々には意外に思われるかもしれませんが、株式の世界というのは、情報を大量に取得して、正しく理解すれば確実に勝てるなんてものでは有りません。
確かに、様々な経済ニュースや企業の取る行動によって株価は動きますが、どちらに動くかは誰にも予測できないのが株式市場なのです。

このことは、LTCMショックをみれば一目瞭然です。
LTCMショックを簡単に説明しましょう。

経済学の最高峰の名誉といっても良い、ノーベル経済学賞を受賞した2人の教授を迎えて資産運用会社が作られました。
これはヘッジファンドの一種で、市場の歪みを見つけては、正常に戻る方にBETするという手法で、一定期間は上手い具合に運用されていました。

一般的にヘッジファンドと聴くと、【ハゲタカ】といった悪いイメージを抱く人も多いと思いますが、実際にはヘッジ(保険みたいなもの)をかけながら、安全に運用されていました。
例えば、ある国の債権が不当に高かったとします。
国の債権が不当に高いというのは、何らかの理由で市場に捻れが生じているという事で、このファンドは空売りを仕掛けます。
ただ、単純に空売りだけを仕掛けた場合、何らかの理由で全世界の債券市場全体が上昇した場合、損失が出ることになります。
その為、別の国の債権で割安なものを探し、これを購入します。

この行動により、債券市場全体の動きには左右されないポジションを持つことが出来ます。
結果として、計算通りに割安なものが買われ、割高なものが値下がりした時に反対売買をすれば、リスクは最小限で済みます。

この様に、世界最高峰の頭脳を集めたファンドが、安全運転で巨額の資金を投資していたのですが、結果はどうなったのでしょうか。
お察しの通り、見事に倒産しました。
この時のショックは計り知れず、LTCMショックとして全世界が損害を受けました。

何故、いちファンドの倒産だけで、ここまで酷いことになったのか。
これは他の銀行や証券会社が、『LTCMの真似をして売買すれば、自分達も同じように利益があげられるんじゃない?』と思い、本当に実行しちゃったからです。
それも、自分達だけでやるならまだしも、『LTCMと同じ運用をするので、確実に儲けが出ますよ』なんて事をいって、一般市民からも金を募って賭けたんです。
全世界の何割彼の人が同じ様な取引をしていた為、LTCMの予測が狂うと同時に、指標を失った人達は反対売買を行い、立ち直れない程の損失を被ってしまったんです。


このLTCMショックは、具体的な例の一つですが、もっと身近にも、市場予測が曖昧だと思える事があります。
例えば、相場格言。
相場格言は、金融市場に昔から残っている諺の様なものなんですが…
全く同じ状況で使える、相反する相場格言が結構あります。

例えば、自分がある株を購入した直後に上昇して、利益が乗っている状態だとします。
売れば良いのか。それとも、更なる上昇を期待して持ち続けるのか。
昔からある格言はなんと行っているかというと【利食い千人力】【損は切って、利は伸ばせ】

利食い千人力】は、僅かでも利益が出れば、売ってしまえば利益は確定するので千人力。
つまりは売れと言っている。

その一方で、【損は切って、利は伸ばせ】は、損失が出た際には早めに損失確定の売りを出すべきだが、利益が乗っているのであれば、持ち続けて上昇を待つべきだと言っている。

もうお分かりだと思うが、この2つの格言は正反対のことを言っており、投資家が売り・買いのどちらを選択し、結果としてどうなっても、どちらかは当たる。
つまり、何も言っていないのと同じなんです。
言い方を変えれば、相場に経験則なんてものは存在しないという事です。


もっと具体的な例で言うなら、アナリストと呼ばれている人達の予測は、統計的に9割近くが外れます。
また、『投資のプロ』であるファンドマネージャーが運用する投資信託は、『日経平均株価』という機械的に出される指数を長期で上回る事が出来ていません。
これは、高い運用報酬を支払ってプロに運用してもらうより、日経平均株価連動商品を購入する方がリターンが大きいことを意味します。


最初のラップ口座の話しに戻りますが、この口座は、『プロに運用を任せる』という名目で、2%程度の運用報酬を請求されます。
2%の報酬を最初から天引きされるという事は、運用された資金が最低3%以上で運用されなければ、投資家の利益がないということになります。
いや、価格変動リスクを被るという点でいえば、手取りで最低3~5%は欲しい所。
という事は、運用報酬の2%と合わせて、最低限5~7%の利益がないと困る。
投資家の報酬が1%未満しか無いのであれば、自分で日本の10年もの国債を購入した方が、損失リスクがないだけマシですから。

では実際に、安定して5~7%のリターンを稼ぐ事が可能なのかというと、現状ではほぼ不可能です。
単年度でみれば、これを大幅に上回る利益も不可能ではないかもしれません。
しかし、長期運用となると話は別で、市場がどのように変化しても確実に5%以上稼ぐというのは無理です。

もし仮に5%以上のリターンが確実に出せるのなら、日本の年金制度は破綻なんてしません。
何故なら、5%を福利で回せば、14年程で資金が倍になるからです。
28年で4倍・32年で8倍。
にも関わらず年金徴収額が上がって受け取り年齢が上昇しているのは、単純に現役世代が減って老人が増えているからだけでなく、資金運用がうまく行ってないからです。

もし『相場のプロ』なんてものが本当にいたとしたら、何億払っても来てもらいたいのは、日本政府ですよね。


長くなりましたが、結論としてはタイトル通り、『相場のプロに任せる』なんていうのは甘い考えなので、考え直した方が良いでしょう。
仮に株に投資をしたいなら、先程も書きましたが、自称相場のプロは、日経平均株価の値動きにすら勝ててません。
なので、自分の資産の何割を日本株に投資するかだけを考えて、日経平均連動ファンドの信託報酬が一番安いものを飼いましょう。
株は価格変動リスクがあって嫌だというなら、自分で債権を買いましょう。

自称プロの運用家に支払う料金分だけは、確実に手元に残りますから。