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【映画感想・考察】 グラン・トリノ

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随分前から名作と噂を聴いていて、色んな人から推薦されていた映画、グラン・トリノをようやく見ることが出来ました。
噂通り非常に良く出来た作品でしたね。

という事で今回は、グラン・トリノの感想や考察を、ネタバレ有りで行っていきます。
既に映画を観た人を想定して書きますので、まだ観てない方で観る予定のある方は、読まないようにお願いします。



私がこの映画を観る前に聞いた あらすじは
頑固な老人が、隣に住む少年と交流を持つ事で、互いが影響を与え合って成長する。
といったものでした。

しかし実際に見てみると、少し感じが違いました。
確かに、クリント・イーストウッド演じる主人公の老人は、癇癪持ちで他の人と交流を持たないように見えます。
ですが、よくよく観てみると、頑固で癇癪持ちで時代遅れと親族から思われてるという感じ。

どう違うのかが分かりにくいと思いますが、老人そのものは、他人を排除しようとか一人で生きていきたいなんて事は、本心では思っていない。
しかし、自分の子供や孫からそう思われているから、不本意ながら、その様な行動を取ってしまうという悲しい状況に追い込まれている様に見えました。

映画の中では、特にそのことを強調する様に、親族全般が愚かな人間に描かれていました。
例えば、普段煙たがっているのに、何かがほしい時だけ媚びへつらう。
要求が聞き入れられなければ、瞬時に手のひら返し。
あんな行動を取られたら、歳をを取って老け込んでいなくても、関わり合いになりたいとは思わないでしょう。


それが分かりやすいのが、隣に引っ越してきた移民家族に対する態度です。
老人は長年、他人から馬鹿にされ、尊敬されずに煙たがられてきた為、隣の家族とは精神的な距離を離して付き合います。
しかし老人が偶然、隣の家族のトラブルを解決することになって、環境は一変します。

移民家族は、トラブルを解決してくれた老人に対して、感謝の気持を表す為に、様々なことを行います。
その様子を見て、最初は警戒していた老人も徐々に警戒を解き、普通の人間関係を築き始めます。

これも先程と同じで、頑固な老人が親切にされ、気を良くして仲良くなったわけではありません。
老人は最初から、人として扱ってくれる人に対しては、普通の態度をとる人間だったんですね。

つまり、人間関係を構築する上で最も重要な事は、接し方ということでしょう。
もっと突っ込んで表現するなら、尊敬しあう関係が作れるかどうかなんでしょう。


主人公の老人とその息子は、同じ自動車関係の仕事に携わっています。
同じ協会である為、一見すると共通点が多そうですが、老人が職人であるのに対して息子は営業。
勤めるメーカーも日本とアメリカと、細かい点でみると差があります。
この差にこだわり、老人は息子を尊敬する事は出来ませんし、息子も親を尊敬する事が出来ていません。
つまり、大きなカテゴリーでみると同じ職場で血筋も同じなのに、双方が尊敬しあっていない為、理解し合えない関係となっています。

その一方で、隣に引っ越してきた家族は、生まれ育った国も違えば人種も違う。
当然、文化も風習も違う為、接点自体は隣に住んでいるという物理的なもの以外は一切ない。
しかしこの家族は、頑なな老人に対し人として尊敬して接します。
老人が持つ人脈や知識、技術等に敬意を払い、学ぶ姿勢を見せます。
その姿勢に老人も敬意を払い、徐々に心をひらいていく。

結果として老人は、遠くに住む血を分けた家族とは解り合えませんが、隣の移民家族とは家族のような関係となります。
今まで書いてませんでしたが、時折登場する神父も同じ。
彼は、一方的に自分の主張を押し付けるのではなく、老人の意見を聴き、取り入れるという事をしています。
この行為も、相手に対して敬意を払っていなければ、出来ない行動ですよね。

個人的には、この映画が一番伝えたかった事は、本当の人間関係をつくる為には、尊敬しあわなければならないという事なんでしょう。
といっても、これは単純に、目上の人を尊敬しようという単純なものではないと思います。

この映画では、老人は移民家族の為に、今まで蓄積してきた技術・知識・人脈を使い、自分の出来る事は全て行います。
移民家族の少年はその姿を観て尊敬します。
ただ単に年齢を重ねた、何の技術・知識・経験も持たない人は、尊敬される事はありません。
つまり尊敬され、普通の人間関係を築くためには、日々の人生をどのように生きるかという事も重要になってくるんですよね。


この映画は、基本的には人間関係を描きならが、銃社会・差別問題・移民・リタイア後の人生・死に方等、様々な要素を取り入れて、ひとつの話にまとめ上げられています。
色々考えさせられるという点で、面白い映画でした。